「子どもが自転車に3時間で乗れる!」を考える

「このやり方で3時間で補助輪が外れた!」

「たった半日で自転車にうまく乗れるようになる裏技!」

こんな見出しの記事があったらついつい見てしまいますよね。

ご多分に漏れず、我が家の長女もこれまでは補助輪つき自転車で遊んでいたのですが、補助輪なしで乗りたい!と自分から主張するようになり練習を始めました。

結論から言いますと、たった5回の練習で乗れるようになりました。

ちなみにうちの子のスペックはこんな感じです。

・5歳2か月、女の子

・足腰はしっかりしていて走るのは速いほう

・補助輪付き自転車は4歳のうちから乗っている

・ストライダーはほぼ経験なし

5/3、練習し始めの時期がこんな感じ。

いっしゅん両足をペダルに乗せることはできるんですが、バランスをとれずにすぐ足をついてしまいます。

その後およそ3週間でこんな感じになりました。

まだ少し左右のブレはありますが、「乗れるようになった」といっていいレベルには達しています。

・・・すごくないですか?

ではとっておきの裏技をご紹介しましょう!

という趣旨の記事ではありません笑

むしろ逆で、数時間や半日で乗れるようになる必要ありますか?と感じています。

ネット上の情報や、公園で練習している親子の様子をいろいろ観察していると

「練習に付き合うのが面倒だからさっさと乗れるようにしたい」「いつまでも乗れないで練習してるのは時間の無駄」という親の都合や価値観を押し付けてしまっている感じがするんですよね。

「コスパ」とか「効率」とか「時短」という言葉がよく使われる時代なので、子育てにもそういった要素が入ってくるのはある意味自然な流れかもしれませんが。

人間の神経系の発育は6歳になるまでの段階で8割が完成する、と一般的に言われていますが、脳がすごい勢いで発達しているこの時期に大切なのは「効率を重視して運動を教える」のではなく、「本人が腑に落ちるように運動を習得させる」ということだと私は思います。いわゆる「身体で覚える」というやつですね。

この辺は理学療法士である私の専門分野なので、どうやって身体で覚えるところまでもっていったか、少しその秘密を(!)おつたえしますね。

とか言って実際にどんなことをしたかというと、子どもが練習しているのを見守っていただけです。ほぼほぼ何もしていません笑

ただ、下記に挙げた3つのポイントだけは注意していました。

①ネガティブなフィードバックはしない

いちばん重要なのは「これができていない」「ここを直しなさい」といった声かけを一切しないことです。

ほとんどのお父さんはこの①の時点で失格です笑

笑っちゃうくらいにパパママたちは我が子にダメ出ししまくってます。中には「なんでできないんだよ!」と怒り出す親もたまーにいます。となりで聞いていてこっちが萎縮してしまうくらい。

5歳児は大人以上に感情がパフォーマンスに影響します。うまくできないし怒られるし・・・という状態では自転車に乗りたい気持ちそのものがなくなってしまいますよね。

「いまうまくできたね!」「その感じでいいと思うよ」といった前向きな声かけをするようにしましょう。

②言葉の指示を増やさない(ごちゃごちゃうるさく言わないこと)

「右足がうまく漕げてない!もっとしっかり踏ん張って」

「だんだん身体が左に傾いていくからまっすぐにして」

自転車の練習中、こうしたアドバイスをしている親御さんの声をよく聞きます。

小学生くらいになると言葉による指示を聞いて動作を修正することができるようになってきますが、5歳児の脳にはこういった形での動作の修正は難しい場合が多いんです(もちろん個人差は多々ありますが)。

この時期は「左」「右」という感覚がまだわかってきたばかり。

「左手上げて!」「右に曲がって!」と急に子どもに言っても、いったん止まって「えっと、お箸は右だから・・・こっち!」というようにワンクッションおいて考えないと身体を動かせないんですよね。

ということで親が言葉で情報(指示)を与えすぎると、子どもはそれを処理しきれずに混乱するだけ。

むしろ親が子どもの真似をして実際に動きを見せてあげて、「こんな感じになってるよ」と視覚的な情報を通して教えてあげたほうがすんなり理解できると思います。

③運動していない時間も大事だということを理解する

少し専門的な話ですが、「自転車に乗る」「泳ぐ」「楽器を演奏する」といった技能についての記憶を「手続き記憶(非陳述的記憶)」といいます。脳の部位でいうと大脳基底核や小脳が中心的な役割を果たします。

この手続き記憶は、実は睡眠や休息といった「運動していない時間」を置くことで、その記憶が定着すると言われています。

参考文献:運動スキル学習に関する考察

ある運動を練習しているときの脳は、本当に必要な太いネットワーク以外にもごちゃごちゃとした余分なネットワークがたくさんつながっていて、うまく整理されていない状態になっています。

睡眠をとって脳が情報を整理する時間をしっかりとることで、こうした余計な神経ネットワークが整理されて、その動きに必要なネットワークだけが残ると言われています。

例えばギターなど楽器の演奏でも、その日には何回やってもうまくできなかったけど、一晩寝て次の日にやってみたらあっさりとうまくできた、というような経験をしたことがあると思います。自転車もまさにそういった状態に近いですね。

スキルを獲得するためには、脳がその情報を整理する時間が必要ということです。

ですから、自転車に3時間で乗れなくっていいんです。うまくいかないままでしばらく過ごす、ということも重要なんです。

個人的には、すぐに結果が出なくても焦らずに続ける、というこうした考え方は、情緒の安定やストレス耐性といったメンタル面の強さにもつながってくる気がします。これからの長い人生、一度やってみてうまくいかなくてモヤモヤする、という体験のほうが圧倒的に多いわけですから。

ということで、子どもの自転車事情と運動学習について少し私見をまとめてみました。

上記のような子どもの運動発達について、もっと深く学んでみたい!という方はこのような講座も開催中ですので、興味のある方はぜひご参加くださいね!近いところでは5/25(土)に開催予定です。

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